介護事業の経営リスク

介護事業の経営リスク

介護事業を営む上での経営リスクは、許認可事業であるが故の実地指導および監査。法人であるための税務調査。労働法規での労基署監査などがある。

最大の経営リスクは指定取消処分である。この点は、金融機関が最も恐れるポイントだ。業績悪化や倒産は決算書などから予測できるので、その傾向が見えると一気に回収優先に方向転換できる。しかし、指定取消は予測不能で、多額の不良債権を発生させることとなる。今後、介護事業の倒産が拡大すると、コンプライアンス対策とその報告が金融機関の融資条件となる可能性も高くなる。

介護保険を利用した事業運営のためには、行政の許認可が必要である。巷には多くの許認可事業があるが定期的に実地指導が入るのは、そこに税金が投入されているからだ。実地指導に関しての対策は以前のコラムに書いたので、そちらを参照して欲しい。

実地指導は基本的に一日で現地指導は終わる。そのために事業所の規模に応じて担当官の数を調整する。中小事業所は基本的に2人体制。大規模や介護施設は4人から6人という構成となる。ごく希に、10人近い大所帯になることがあるが、これは会計検査院の監査を兼ねる場合である。このとき、役所は事業所の状態を、会計検査院の担当官は役所をチェックしている。故に、この場合は比較的優良な施設が選ばれるために大きな問題が起こることは少ない。

実地指導がもう3日も続いてるんです。。たまに聞く話だ。実地指導は1日で現地指導は終わることは先に書いた。2日以上続く場合は、監査に切り替わる直前と考えるべきだ。実地指導と監査は別物だ。監査は大きな不正などの問題の疑いが浮上すると実施される。これは指導では無くて、捜査だ。書類はダンボールに入れて押収され、管理者や職員は適時に役所に呼び出されて事情聴取を受けることとなる。その先にあるのは行政処分である。

実地指導で介護報酬が返還となる。これは処罰ではない。報酬請求の誤りが判明したので事業所が自ら自主返還する形を取る。よって、手続は過誤申請の上で再請求となる。この場合、罰金などは付かない。

監査となって行政処分を受けた場合、役所から返還請求され、この場合は罰金として不正金額の40%が上乗せされる。よって、行政処分を受けると巨額の返還を余儀なくされるのは、この罰金が原因だ。

指定取り消し等の行政処分を受けた場合、その時の役員は5年間に渡って、法人の役員や人員基準上の管理者、責任者に就くことが出来ない。これは行政処分になった法人だけではなく、介護事業の許認可を受けたすべての法人が対象となる。

また、連座制というルールもある。複数の事業や拠点を運営している時、一箇所の拠点が行政処分を受けたとき、その拠点に対して本日機能を持つ部署が不正を指導したり、その隠匿を行った場合は。不正を行った拠点だけでなく、法人全体が行政処分となるルールだ。近年は連座制を適用されるケースも増えて来ている。今のところ、FC本部が適用されることは無いが、大きな不正に本部が絡む事例が出た場合、適用範囲が拡大することも考えられる。

次に税務調査である。社会福祉法人は法人税の申告が無いから関係無いと考えていると足下をすくわれる。介護事業で税金の追徴を受けるケースは、一般的な法人税や消費税を別とすると、源泉所得税が際立って多いことをご存じだろうか。訪問介護に登録ヘルパーがいる。登録ヘルパー複数の事業所と契約することも多く、どちらかというと外注という見方が強い。そのため給与から源泉徴収をしていない。年末調整に加えていないなどのケースを見かける。これは一般の非常勤職員でも有り得るだろう。ご主人の扶養に入るために年末調整を出さないなどの脱税補助もまれに見かける。

すべての介護事業に於いて。人員基準上に配置する職員は、雇用契約を結んだ上で管理者の指揮命令下に置くことが定められている。その職員が外注であり、雇用関係が無い場合、資格の無い者が介護サービスを提供したとして人員基準違反で行政処分となる。この処分理由はよく見かけると思う。

と言うことは、登録ヘルパーや非常勤職員は雇用関係が存在することとなる。雇用関係がある場合、給与から源泉徴収する義務は法人側にある。よって、税務調査において、この部分が指摘され、本人から源泉徴収をしていないとしても、源泉徴収を行ったとして計算して法人が相当分の源泉徴収を納付することが求められる。この金額は、数百万円となった事例も多く聞く。

当然に本人分の年末調整もやり直しとなる。その結果、本人に都道府県や市町村の地方税の納付書が届いたり、ご主人の扶養から外れるなどの修正を余儀なくされる。所得税の源泉徴収や年末調整は、社会福祉法人も対象であるので、この点に限定した税務調査が行われている。このあたり、会計事務所や社会保険労務士におんぶに抱っこ状態だと危険だ。外部委託していても、責任は施設側にある。

源泉所得税の問題では、交通費に関する追徴も多い。一般の会社も同様だが、職員の交通費を一ヶ月の定期券代で支給していることも多い。そして、その部分の交通費は非課税として源泉所得税対象外とする。しかし、介護施設などは勤務が不定期であるので、自家用車での通勤も多い。盲点は、公共交通と自家用車通勤では交通費の非課税枠の上限が異なることだ。この点を税務調査で指摘されて、非課税として扱っていた交通費分の所得税を追徴されるケースも多い。

もう一点、居宅介護支援が地域包括センターから予防ケアプランの外部委託を受けるケースである。介護保険収益は消費税は非課税である。しかし、地域包括センターからの外部受託収入は、消費税は課税収入となるのだ。よって、保険外サービスなどの課税収入と合算した金額が1000万円を超えると、消費税の課税事業者となって消費税の納付義務が生じる。この点は、未だに盲点であり、このことを認識していない会計事務所も多いようだ。社会福祉法人にとっても同様で、外部受託収入は収益事業扱いである場合があることにも注意が求められる。

このあたり、介護保険制度や税法を知らない社会保険労務士などに給与計算や年末調整を外部委託する場合は特に注意が必要である。ただ、外注先が会計事務所であっても介護事業を知らないと同様であるが、、専門士業は介護保険制度の対応力、専門性を最優先して契約すべき理由はここにある。

最後に労基署の監査だ。一般的に労基署の監査は、一定規模以上の法人で無いと入らないと言われる。しかし、介護事業は該当しないようで、小規模な事業所に監査が入り、残業代の未払いなどの行政指導を受けたケースを耳にする。労基署の監査の原因が、職員や元職員からの告発であることも多く、注意が必要だ。

介護事業を営みかつ事業を拡大する場合、目立つが故に、これらのコンプライアンスリスクが拡大する。しかし、多くの場合、事業拡大に集中するが故に後手後手になりがちである事も以前のコラムに書いた。その辺り、万全と言える体制をとっているだろうか。

専門家と顧問契約していても、言い訳にはならない。専門家が身代わりになることもない。せいぜい、誤った指導に対して損害賠償請求するのが関の山だ。専門家やブレーンの選び方は慎重を期すべきだし、全ては経営者の自己責任なのだ。

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