コンプライアンス対策は日常の中で

コンプライアンス対策は日常の中で

急成長する介護事業ほど、足下が疎かになりがちだ。行け行けで、直接に収益に関わる部分に注視しすぎて、コンプライアンスや経理、労務といった間接部門が追いついていない。その結果、実地指導(最悪は監査で行政処分)、税務調査、労基署監査で痛い目にあう。間接部門は最初に仕組みさえ整えておくと、あとは定期的なチェック機能を設けることで管理出来る。

昨年の5月に新しい運営指針が発出されて以来、実地指導は半日型が明らかに増えている。これは全国各地を廻っていて感じる。また、抜き打ち型も確実に増加傾向だ。実地指導のかたちは、年々変化が見られる。

介護保険制度が始まった当初は、高飛車でいかにもお役所的な指導が目に付いた。施設に到着するなり、足を組んで恫喝するといった担当者も見受けられた。この状況に厚労省は平成20年頃だったか、通知を出している。即ち、実地指導はあくまでも指導であって、監査では無いと。明らかに、上から目線の高圧的な実地指導が全国的な問題となっていた。

介護保険制度は、難しい、複雑だ。ボリュームが多くて大変だというイメージが強い。事務負担軽減と言いながら、年々制度の複雑さが増している印象が強い。そのイメージを助長しているものが、多くの施設の本棚に鎮座している3冊の書籍である。いわゆる、赤本。青本。緑本。そう、介護報酬の解釈である。

確かに、介護報酬の算定要件は複雑でボリュームが多い。しかし、人員基準、設備基準、運営基準については共通項も多く、実はシンプルな構成になっている。サービス毎に同じことを書くから、赤本のボリュームになっているだけだ。

シンプルな構成とは、ケアマネジメントプロセス、整合性、計画と記録を三本柱とする仕組みだ。これは10年以上前から、セミナーなどで伝えているし、書籍の構成もこの三本柱に基づいて書いている。

新しい運営指針は7つのサービスにおいて標準確認項目と文書が出されたが、他のサービスもこの7つのサービスを参考に実施することになっている。なぜ、他のサービスが参考に出来るのか。

7つのサービスの標準確認項目と文書を横に並べて見比べて欲しい。そうすると7〜8割りの範囲で、まったく同じ事が書かれていることに気づくだろう。残りの3割程度だけが、サービス単体の相違に基づく項目だ。介護施設の特養と老健を比較しても、全く異なる性格の施設であるに関わらず、その違いは特養が3項目多いに過ぎない。あとは一言一句、同じなのだ。

なぜ、基本的な指定基準がシンプルで共通項が多いのか。それは行政指導を実施する窓口が地方自治体であることが大きな理由だ。地方分権を取る介護保険制度において、介護保険行政の担当者は平均的に3年で配置転換される。これは、役人の不正や汚職を防ぐリスク管理の側面が強い。実際に10年近くも介護保険行政に関わった埼玉県和光市の幹部職員は逮捕される事件を昨年に起こしている。

実質3年では、制度の全体像を把握した頃に次の部署に移ることとなる。また、4月に配置転換で介護保険部署に異動した担当官は2ヶ月後の6月には実地指導を担当することも多い。4月に初めて介護保険に触れたのに、なぜたった二ヶ月で実地指導が出来るのか。それは、サービスの種類に関係無く、チェックポイントが同じであることに尽きる。よって、実地指導は必ず複数の職員で担当し、決して1人での実地指導は無い。そして、経験の浅い担当官が指定基準関係を担当し、ベテラン担当官が介護報酬など熟練を要する担当を務める。熟練と行っても、たったの3年程度だが。

実地指導を含むコンプライアンス対策は、一部の幹部職員だけが研修に参加して理解しても意味が無い。全職員レベルでケアマネジメントプロセス、整合性、計画と記録を三本柱を熟知するように内部研修を組むべきだ。

加算を筆頭とする介護報酬も、青本を全て学ぶ必要は無い。自分の施設が算定する報酬の算定要件だけで良いのだから、せいぜい片手くらいで済むだろう。3年に一回の制度改正の度に、研修カリキュラムを変えれば済むことだ。

それを年に数回で十分だから、定期的に一般職員の研修計画に位置づけて実施する。それを継続する事で、施設のコンプライアンス対策は飛躍的に向上する。職員も自信を持って日常業務を行う事が出来る。

事業拡大を志向する場合、施設内にコンプライアンス部門を設置して内部監査を定期的に行うことも特別では無くなった。その場合も、一般職員への定期的な研修を実施すべきだし、定期的に外部からの監査チェックを実施すべきだ。内部だけでは、どうしても身内ということもあって詰めが甘くなる。

これは、介護保険制度だけではなく、障害福祉制度も同じである。障害福祉制度も同様に基本的な仕組みはシンプルになっている。ケアマネジメントプロセス、整合性、計画と記録の三本柱は同じなのだ。ただ、障害福祉では未だにセルフプランが多いのだが。

昨年は京都府の2箇所の自治体の社協で印鑑不正使用の問題が発覚した。介護職員処遇改善加算の返還指導も急増している。人材難を反映した職員の水増しや架空職員が発覚しての行政処分も依然として多い。

実地指導を受けたら、お土産を渡さないといけない。これは実はよく聞く言葉だ。お土産とは、多少の介護報酬返還を意味する。実地指導に限らず、税務調査でも良く聞く言葉だ。担当官も成績があるので、手ぶらでは帰れないから。冗談ではない。お土産なんて必要無いのだ。

実地指導の中で問題が出ないと、調査官のチェックは時間の経過と共に重箱の隅をつつくように厳しくなる。それが嫌だから言っている部分もあるのだろう。しかし、それを乗り越えると待っているのは、空欄だけの指導結果通知書である。即ち、指導項目ゼロである。

実際に私が直接に指導する複数の介護老人保健施設などは、この空欄だけの指導結果通知書を何度も受け取っている。それが当たり前と考えなければならない。しかし、それは日頃の努力の積み重ねでもある。実地指導の通知が来てから焦って準備しても間に合うわけが無い。

コンプライアンス対策は日常的な積み重ねが重要なのだ。大事になってから後悔しても遅すぎる。実地指導は決して甘くは無いが、事前対策は確実に行うことで、問題は問題では無くなる。

© 小濱介護経営事務所 2020